MRIを導入する脳神経外科クリニック
脳神経外科の診療圏調査も基本的な部分では他の科目の診療圏調査と同様に、
①1次診療圏および2次診療圏を設定し、
②同圏内の人口に受療率を乗じて、地域患者数を算出し、
③競合施設数+1(自院分)で除して、推計患者数(自院への来院見込患者数)を求めます。
そして、地域住民の年齢層、今後の人口増減の見込みについても他の科目と同様に検証します。
内科などの科目と違い診療圏の設定距離範囲の違いが挙げられます。仮に一般内科との比較でいくと、想定する患者が異なってきます。一般内科ではクリニック周辺を生活圏としている住民が大半の患者となります。よって、診療圏は徒歩で来院出来る範囲(1次診療圏:500m、2次診療圏:1km)、車社会では10分程度で来院出来る範囲(1次診療圏:2km、2次診療圏:4km)のような設定となります。
一方、脳神経外科はクリニック数が内科に比べると圧倒的に少ないこともあり、内科に比べると遠方からも来院します。MRI検査をしたいといった来院動機も明確で、病院では数か月先になることも少なくないですが、クリニックですぐに(出来れば即日)検査してもらいたいという要望のため、ホームページ等で調べて来院することになります。そのため、2駅、3駅離れた立地であれば電車に乗ってでも、車社会であれば30分離れた場所であったとしても、来院します。そのため、診療圏も一般内科の2倍、3倍の範囲を設定することになります。
加えて、ここからが特徴的な点になりますが、MRIを導入する脳神経外科では、MRI撮影件数をどれだけ見込めるかの検証をします。
具体的には診療圏および開業地周辺にMRIを保有する施設(病院・クリニック)は何施設あり、何台設置されているか、何件の撮影をしているかという情報を集め、開業地では何件の撮影が見込めるかを検証する作業となります。
以下、診療圏調査と開業後の患者数の比較です。
標榜科目 脳神経外科 | 範囲 | 人口/人 | 地域患者数 | 競合数 | 見込患者数 | 地域MRI 撮影件数/月 | MRI台数 | 見込MRI 撮影件数/月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1次医療圏 | 1.5km | 80,000 | 90 | 1 | 45 | 800 | 0 | 800 |
2次医療圏 | 3.0km | 120,000 | 130 | 7 | 3 | 240 | 3 | 60 |
合計 | 200,000 | 8 | 48 | 3 | 860 |
※地域MRI撮影見込件数 算出計算式
日本国内の1台当たりの月間平均撮影枚数200枚/月
日本国内のMRI設置台数は約20,000人に1台(国内に約6,000台設置)
上記計算式により、約10,000人に対して月間100枚の撮影枚数のためMRI撮影率は1%
1次診療圏内の居住人口80,000人÷(MRI設置台数+自院の台数)*撮影率1%=800枚/月
2次診療圏内の居住人口120,000人÷(MRI設置台数+1台)*撮影率1%*
2次診療圏距離係数20%=60枚/月
立地は東京都下 主要沿線 駅前であり、徒歩生活圏のため1次診療圏を1.5km・2次診療圏を3.0kmに設定しました。
標榜科目は脳神経外科として、1次診療圏には地域患者数1日45人の患者数が見込める調査結果となりました。
他の脳神経外科を標榜する施設の競合度の強弱を加味した上で、施設数と競合度はイコールと判断し、1次診療圏+2次診療圏合わせて1日48人の患者数が見込める調査結果としました。
平均患者数(人/日) | 平均MRI撮影件数(件/年) | |
---|---|---|
1年目 | 25 | 180 |
2年目 | 45 | 330 |
3年目 | 55 | 400 |
結果、2年目で診療圏調査結果同等の来院患者数を達成し、3年目で診療圏調査を上回る来院患者数となりました。
他方、MRI撮影件数は、当地では、1台あたり860件/月の撮影が見込める立地となっていました。
結果は、3年目で400件/月の撮影を実施。営業日数によって月単位では多少の増減はあるものの、年間平均としては横ばいとなりました。撮影予約枠を増やせば撮影件数は伸ばせる状況ではありましたが、1人の患者に対する診療時間を確保したい院長の意向から一定の検査数に抑えて運用しています。
外来患者数、MRI撮影件数、共にポテンシャルの高い立地で、一番恩恵を受けるのは開業初期の患者数の伸びです。立ち上がりの良さともいえます。
クリニック開業の事業リスクが高いとされる開業当初の2年間に、どれくらいの患者数を、より早い段階で、より多く獲得出来るかがポイントとなり、その指標となるのが診療圏調査となります。
診療圏範囲の設定方法、周辺既存施設の競合度の強弱の見極めが診療圏調査の肝となり、診療圏調査結果の数値から開業後の患者数を予測していくことが重要です。当社では統計で算出された数値に独自の係数(ノウハウ・経験値)を掛け合わせて、導き出していきます。
当社では多くの脳神経外科クリニック(MRI導入)の開業支援をする中で、診療圏調査と開業後の患者数の比較検証を繰り返し、一定の答えに行きつきました(検証は日々、更新中)。地域毎のアレンジは必要になるものの、根柢のノウハウは確立され、脳神経外科クリニックの開業支援に反映させて対応しています。
ご開業を検討始めた段階で、まずはリコーリースへご相談ください。
<用語の説明>
診療圏調査
開業候補地での来院見込み患者数(多くは1日あたり)を人口統計(国勢調査)や厚生労働省発表の受療率データなどを基にして、推定するもの
診療圏
自院に通院してくれる患者が見込まれる地域を設定したもの。多くは自院を中心として円でエリアを定める。
1次診療圏
自院に近く、来院患者率が高いエリア。交通手段にもよるがおおむね10分程度で来院できるエリア
2次診療圏
1次診療圏の外側で患者の来院が見込めるエリア。同様におおむね15分程度
2次診療圏距離係数
1次診療圏内と比べ遠方になるため、距離係数を設定する。
通常は、0.2に設定。交通事情が他の施設と比較して有利・駐車場が豊富等の要因があれば2次診療圏距離係数を0.2‐0.5の範囲内で変更し、来院予測患者数を算出する。